乙字湯は、痔や便秘の改善に使われる漢方薬として知られていますが、最近では「ダイエットにも効くのでは」と注目されています。実際に乙字湯を飲んで「体重が減った」と感じる人もいますが、その多くは便通改善による一時的な変化です。
この記事では、乙字湯の基本的な作用や成分、ダイエットとの関係、そして使用時の注意点について詳しく解説します。体質改善を目的とした正しい使い方を理解し、安全に取り入れるためのポイントを整理します。
乙字湯とは何か

処方の歴史と基本的な適応症状
乙字湯(おつじとう)は、古くから日本や中国で用いられてきた漢方薬で、主に痔疾(じしつ)、つまり痔や肛門周囲の炎症、出血、脱肛などの症状を改善する目的で処方されます。原典は中国の医書『済生方』に記載され、日本でも江戸時代から広く使われてきました。
乙字湯は、体の「気」と「血」の流れを整え、炎症や腫れ、痛みを和らげるとされています。特に、長時間のデスクワークや便秘などで血行が悪くなり、肛門周辺にうっ血が生じた際に効果を発揮します。また、便通を促し、排便時の痛みを軽減することから、便秘改善目的で処方されることもあります。
基本的な適応症は「痔核(いぼ痔)」「脱肛」「便秘に伴う肛門痛」などで、体力中等度以上の人に適しているとされています。虚弱体質や極端な冷え性の人には不向きな場合があり、使用前に医師や薬剤師の相談が推奨されます。
乙字湯は、便通を整えることで痔の症状を緩和し、炎症を抑えるという二重の働きを持ちます。この「便通改善作用」から、「ダイエットにも効果があるのでは」と関心を持つ人が増えていますが、次の項でその仕組みと実際の効果を詳しく見ていきます。
成分・漢方理論からみる働き
乙字湯は、6種類の生薬で構成されています。
それぞれの役割は以下の通りです。
- 黄芩(おうごん):炎症を鎮め、熱を冷ます作用
- 大黄(だいおう):便通を促進し、体内の老廃物を排出
- 柴胡(さいこ):気の巡りを整え、ストレスによる不調を改善
- 升麻(しょうま):体の上部の「気」を持ち上げ、脱肛を改善
- 当帰(とうき):血流を促進し、冷えを改善
- 甘草(かんぞう):他の生薬の調和と副作用の緩和
この組み合わせにより、乙字湯は「気」「血」「熱」「水分代謝」のバランスを整え、痔疾の根本的な改善を目指します。特に大黄の緩下作用によって腸の動きが促進されるため、便秘がちな人には排便リズムの改善が見られることもあります。
ただし、大黄の作用が強すぎると、腹痛や下痢を引き起こす可能性もあります。そのため、体質や服用量に注意が必要です。乙字湯は単に「便を出す薬」ではなく、体全体のバランスを整える「調整薬」として理解することが大切です。
このように、乙字湯は本来「痔疾の治療薬」でありながら、結果的に便通が整うことで体重が一時的に減少することもあります。次の章では、その「ダイエット効果」と呼ばれる現象の正体を、より詳しく解説します。
「ダイエット目的」で乙字湯を使うときに知っておきたいこと

便通改善による体重減少の仕組みと限界
乙字湯を服用すると、「便通が良くなって体重が減った」と感じる人が少なくありません。
これは、乙字湯に含まれる大黄(だいおう)の緩下作用によって、腸内に溜まっていた便や老廃物が排出されるためです。結果的に一時的な体重減少が起こりますが、これは脂肪の減少ではなく、体内内容物の排出によるものです。
つまり、「便秘が解消して体重が軽くなる」ことはありますが、これは体脂肪が燃焼したわけではありません。乙字湯自体に「脂肪分解」や「代謝促進」といったダイエット効果は確認されていません。
また、乙字湯を長期間にわたってダイエット目的で使用すると、腸が刺激に慣れてしまい、自然な排便機能が低下するリスクがあります。これは「下剤依存」と呼ばれる状態で、薬がないと排便できなくなってしまうこともあります。
ダイエット効果を狙う場合、乙字湯による「便通改善」を目的とするのは有効ですが、それを体重減少の主目的とするのは誤りです。むしろ、腸内環境を整えるサポートとして、一時的に活用する方が望ましいでしょう。
また、乙字湯で排出されるのは主に水分を含む便であるため、服用後は体が脱水傾向になりやすく、結果的に代謝が下がるケースもあります。十分な水分補給と、食物繊維を多く含む食事の併用が必要です。
このように、乙字湯の「ダイエット効果」とされるものは、あくまで便通の改善に伴う一時的な変化にすぎません。健康的な減量を目指す場合は、生活習慣の改善や運動、食事管理を中心に行うことが基本となります。
乙字湯をダイエット目的で使用するリスクと注意点
乙字湯は市販の漢方薬として比較的手軽に購入できますが、「ダイエット目的で飲む」場合にはいくつかの注意点があります。特に、誤った使い方をすると体調を崩すリスクがあるため、次の点を理解しておきましょう。
まず、乙字湯の主成分である大黄には強い下剤作用があります。そのため、長期的な服用や過剰摂取は腸内環境を悪化させるおそれがあります。腸の粘膜が刺激に弱くなり、腹痛や下痢、脱水などを引き起こすケースも報告されています。
また、乙字湯はもともと「痔の炎症を抑える」ために設計された薬であり、体重減少を目的とするものではありません。体質に合わない場合、血行が良くなりすぎてのぼせやすくなる、または冷えが悪化するなどの副作用が現れることもあります。
さらに、妊娠中・授乳中の女性や、胃腸が弱い人、体力が低下している人は服用を避けるべきとされています。特に大黄の作用は子宮収縮を促すため、妊婦にとっては危険です。医師の診断なしに自己判断で使用するのは避けましょう。
もし乙字湯を便通改善のために短期間使用する場合でも、1〜2週間を目安にし、効果が見られない場合は中止することが推奨されます。継続的な便秘や体重増加が気になる場合は、体質や生活習慣の見直し、あるいは漢方専門医の相談を受けるのが適切です。
まとめると、乙字湯をダイエット目的で使うことは、短期的な便通改善には有効ですが、体脂肪を減らす効果はありません。安全に利用するためには、目的と使用期間を明確にし、医師や薬剤師の助言を得ながら活用することが大切です。

