乙字湯と防風通聖散はいずれも便秘や炎症、血行不良などを改善する代表的な漢方薬です。どちらも似たような症状に使われることから、「一緒に飲むとより効果が高まるのでは?」と考える人も少なくありません。しかし、実際にはそれぞれの目的や体質への適応が異なり、併用には注意が必要です。
本記事では、乙字湯と防風通聖散の特徴の違い、飲み合わせによる副作用の可能性、そして安全に服用するためのポイントをわかりやすく解説します。
乙字湯と防風通聖散の基本情報と違い

乙字湯の特徴と効果・適する体質
乙字湯(おつじとう)は、古くから痔の治療に用いられてきた代表的な漢方薬です。もともとは「痔核(いぼ痔)」「裂肛(きれ痔)」「軽度の脱肛」など、肛門周囲の炎症やうっ血、痛みに対して処方される薬ですが、その根本には「血の巡り」と「便通の改善」という二つの柱があります。単なる便秘薬ではなく、体質改善を目的とした処方であることが特徴です。
乙字湯の主な構成生薬は、当帰(とうき)、柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)、升麻(しょうま)、大黄(だいおう)、甘草(かんぞう)の6種類です。これらはそれぞれ異なる作用を持ちながら、相互に補い合って痔の原因を多方面から改善します。当帰は血の巡りを良くし、炎症部位の回復を促進します。柴胡と黄芩は炎症を抑え、熱を下げる作用があります。升麻は脱肛などを引き締める働きを持ち、大黄は便をやわらかくして排出を助けます。そして甘草が全体の調和をとり、副作用を抑える役割を担っています。
体質的に合うのは「中等度以上の体力があり、便秘傾向のある人」です。便が硬く、排便時に肛門が切れたり、痛みや出血を伴うタイプに向いています。また、ストレスや生活習慣の乱れから血流が滞り、下半身のうっ血が起きやすい人にも適しています。反対に、虚弱体質で下痢しやすい人や、胃腸が弱い人には向きません。大黄を含むため、下痢傾向のある方が服用すると腹痛や下痢を起こすことがあります。
乙字湯の魅力は、炎症を鎮めながら排便をスムーズにする点です。現代の薬理学的な観点からも、大黄の緩下作用と黄芩・柴胡の抗炎症作用の組み合わせは理にかなっています。また、当帰による血流改善作用は、うっ血性の痔や慢性的な炎症に良い影響を与えると考えられています。
ただし注意点もあります。乙字湯は瀉下(しゃげ)作用を持つ大黄を含むため、他の下剤や便秘薬との併用には注意が必要です。また、甘草を含むため、長期服用や他の甘草含有製剤との併用によって、偽アルドステロン症(むくみ、高血圧、低カリウム血症)を引き起こすことがあります。特に高齢者や腎臓疾患を持つ方は、医師または薬剤師への相談が欠かせません。
まとめると、乙字湯は「体力中等度以上・便秘傾向・うっ血体質」の人に合う処方であり、肛門部の炎症や痛み、出血を和らげる効果が期待できます。一方で、体質や服用中の薬によっては副作用のリスクがあるため、自己判断での長期使用や他の漢方との併用は避けるのが賢明です。
防風通聖散の特徴と効果・適する体質
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は、体内の「余分な熱」や「老廃物」を取り除くことを目的とした漢方薬です。主に肥満体質で、顔のほてり、便秘、肩こり、むくみなどを伴う人に用いられます。現代では「ダイエット漢方」として注目されていますが、その本来の目的は「体内の滞り(熱・湿・瘀血)」を改善し、代謝のバランスを整えることにあります。
この処方は、18種類以上の生薬から構成されています。主なものは、黄芩(おうごん)、大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)、防風(ぼうふう)、桔梗(ききょう)、麻黄(まおう)、石膏(せっこう)、山梔子(さんしし)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、薄荷(はっか)、連翹(れんぎょう)などです。これらが連携して「発汗」「清熱」「利尿」「通便」「血行促進」など、多面的に体の代謝を整えます。
防風通聖散の特徴的な作用は、大きく分けて3つあります。
第一に、「体内の熱や老廃物を排出する作用」。麻黄や防風、石膏、山梔子などが体にこもった熱を発散させ、代謝を高めます。第二に、「便通を促し、老廃物を出す作用」。大黄と芒硝が腸を刺激して便通を改善し、体の不要物を外に出します。第三に、「血流と水分の流れを整える作用」。当帰や芍薬、川芎が血行を改善し、むくみや倦怠感を軽減します。これらの作用により、いわゆる「肥満・便秘・のぼせ」などの症状を同時に改善できる点が、防風通聖散の大きな強みです。
適する体質は「体力があり、脂肪がつきやすく、便秘やのぼせがある人」です。いわゆる「実証(じっしょう)」と呼ばれるタイプで、体の熱が強く、代謝が活発な人に向いています。反対に、体力が低下している人、胃腸が弱い人、冷え性の人には合いません。このような人が服用すると、胃痛や下痢、脱力感などを起こすことがあります。また、麻黄を含むため、心疾患や高血圧のある人も注意が必要です。
近年は「ダイエット目的」で防風通聖散を試す人が増えていますが、適する体質でなければ効果が出にくいばかりか、副作用が生じることもあります。特に便秘傾向がない人が服用すると、腹痛や下痢を起こしやすくなります。また、甘草を含んでいるため、長期使用や他の甘草含有薬との併用により、偽アルドステロン症や低カリウム血症が起こることも報告されています。
このように、防風通聖散は「実証タイプで便秘・肥満・体の熱がこもる人」に適した処方です。炎症を鎮め、便通を促し、体内の不要物を排出することで、体のバランスを整えます。しかし、体質に合わない人が服用すると、胃腸の不調や脱力感などの副作用が出ることがあるため、安易に市販品を選ぶのではなく、専門家に相談してから使用することが大切です。
乙字湯と防風通聖散の飲み合わせの注意点

併用によるリスクと副作用の可能性
乙字湯と防風通聖散はいずれも「便秘」「うっ血」「炎症」などに関連する症状に用いられる漢方薬ですが、併用することで生薬の作用が重なり、副作用リスクが高まる可能性があります。どちらも体内の熱や老廃物を取り除く方向に働くため、一見すると相性が良さそうに思えますが、実際には体質や配合成分の違いから注意が必要です。
まず最も大きなリスクは、「瀉下(しゃげ)作用の重複」です。乙字湯には大黄が、防風通聖散には大黄と芒硝が含まれています。これらはいずれも腸を刺激して便を出しやすくする作用を持ちます。したがって両方を一緒に飲むと、腸の蠕動(ぜんどう)運動が過剰に起こり、腹痛・下痢・脱水などの症状が現れることがあります。特に体力が落ちている人や高齢者では、電解質バランスの乱れを引き起こすこともあるため、併用は慎重に行う必要があります。
次に注意すべきは、「甘草(かんぞう)」の重複です。乙字湯にも防風通聖散にも甘草が含まれており、長期併用によって“偽アルドステロン症”と呼ばれる副作用が生じることがあります。これは、体内のカリウムが低下してむくみや高血圧、筋肉のこわばり、倦怠感などを引き起こす症状です。特に高齢者や腎臓・心臓に疾患を持つ人では、軽い症状から重度の不整脈を招く危険もあるため、甘草を含む複数の漢方薬を同時に服用するのは避けるべきです。
さらに、「証(しょう)」の違いによる体調悪化のリスクも無視できません。乙字湯は比較的中等度の体力を持つ人に適し、体が冷え気味でも血行不良を改善する方向に働きます。一方、防風通聖散は体力があり、熱がこもる「実証」タイプに適しています。つまり、体質が異なる人が両方を飲むと、体のバランスを崩してしまうことがあるのです。実際に、乙字湯で便通が整っている人が防風通聖散を併用した結果、下痢が続いたという報告もあります。
また、併用時には肝機能や腎機能への負担も考慮すべきです。多種類の生薬が同時に代謝されるため、肝臓の解毒負担が増え、倦怠感や吐き気、浮腫(むくみ)が出ることがあります。市販薬の中には両方の処方を同時に服用しても問題ないと誤解されがちですが、医薬品情報上では「他の漢方製剤との併用に注意」と明確に記載されています。これは、同じ生薬が重複して含まれているために生じる副作用を防ぐための警告です。
併用による具体的な副作用としては、次のようなものが挙げられます。
- 下痢・腹痛・脱水
- 倦怠感・むくみ・高血圧(偽アルドステロン症)
- 食欲不振・胃の不快感
- 体の冷え・ほてりなどの体温調整異常
- 筋肉のけいれん・手足のしびれ(低カリウム血症)
こうした症状が出た場合は、ただちに服用を中止し、医師または薬剤師に相談することが大切です。
まとめると、乙字湯と防風通聖散の併用は「便通・代謝の過剰刺激」「甘草の重複」「体質の不一致」という三つの観点からリスクを伴います。どちらも優れた処方ですが、併用することで体調を崩す危険があるため、専門家の判断を仰ぎながら服用計画を立てることが重要です。
併用を避けるべきケースと安全な服用のポイント
乙字湯と防風通聖散は、どちらも便秘や炎症、血行不良の改善に役立つ漢方薬ですが、「似ているから一緒に飲むとより効果がある」と考えるのは危険です。実際には、生薬構成や体質への適応が異なるため、安易な併用は症状を悪化させたり、副作用を起こす可能性があります。ここでは、併用を避けたほうがよいケースと、安全に服用するためのポイントを整理します。
まず、併用を避けるべきケースは次のとおりです。
- 下痢傾向・胃腸が弱い人
乙字湯も防風通聖散も下剤成分である大黄を含みます。そのため、便秘がない人や下痢をしやすい体質の人が併用すると、腹痛や下痢が悪化します。胃腸が弱い人では、嘔気や食欲不振などの消化器症状が出ることもあります。 - 高血圧・むくみ・腎臓疾患のある人
両方の漢方に共通して甘草が含まれています。甘草を過剰に摂取すると、偽アルドステロン症と呼ばれる副作用を起こすことがあります。これは体内のカリウムが減少し、むくみや血圧上昇、筋肉のけいれんなどを引き起こすものです。腎機能に負担をかけるため、腎臓病や心疾患がある人は特に注意が必要です。 - 体力が低下している人・高齢者
防風通聖散は「実証(体力がある)」タイプに向く漢方薬です。体力が弱い人が服用すると、代謝を強く刺激しすぎて疲労感やめまい、脱力感を感じることがあります。乙字湯は中等度体力向けですが、併用すると刺激が過剰になり、体調を崩す原因になります。 - 他の漢方薬・医薬品を服用中の人
特に同じく大黄や甘草を含む薬(便秘薬、感冒薬、鎮痛薬、他の漢方)を飲んでいる場合は注意が必要です。生薬の重複で副作用リスクが高まります。
安全に服用するためのポイント
- 目的を明確にして、どちらか一方を選ぶ
乙字湯は「痔や便秘を伴う炎症」、防風通聖散は「肥満・便秘・のぼせ・むくみ」など、目的が異なります。どちらの症状が主なのかを明確にして、一方を選ぶのが原則です。 - 自己判断での併用は避け、医師・薬剤師に相談する
市販の漢方薬は自由に購入できますが、体質や服薬歴によっては危険な組み合わせになります。特に、複数のサプリメントや西洋薬を服用している場合は、相互作用のリスクを確認することが大切です。 - 服用中は体調の変化を細かく観察する
むくみ、倦怠感、手足のしびれ、動悸、下痢などが出た場合は、すぐに服用を中止し、専門家に相談してください。副作用の初期症状を見逃さないことが重要です。 - 一時的な症状緩和ではなく、体質改善を重視する
漢方薬は「合う・合わない」が体質によって異なります。短期間での効果を期待するよりも、自分の体質に合った処方を継続的に使うことで、根本的な改善が期待できます。 - 服用間隔を空ける場合も専門家の指導を受ける
「朝は乙字湯、夜は防風通聖散」という飲み分け方を勧める情報もありますが、これは医療機関の指導下で行うべき方法です。自己判断で時間をずらしても、生薬の代謝時間や体内蓄積を考慮しなければ副作用リスクを避けられません。
まとめると、乙字湯と防風通聖散の併用は、体質や目的が異なるため基本的には推奨されません。併用が必要な特別なケースであっても、医師や漢方専門薬剤師の監督のもとで行うことが安全です。体質に合った方を一方だけ選び、正しい服用量と期間を守ることが、効果を最大化し副作用を防ぐ最良の方法といえるでしょう。

