乙字湯は、痔や便秘などの改善を目的として使用される代表的な漢方薬です。市販や病院処方で目にする「ツムラの乙字湯」と「クラシエの乙字湯」は、名前は同じでも中身や使い方にいくつかの違いがあります。
本記事では、両社の乙字湯の成分や効能、価格、販売形態の違いをわかりやすく整理し、どちらを選ぶべきか判断できるように解説します。初めて漢方薬を検討する方にも理解しやすいよう、体質や症状に合わせた選び方のポイントも紹介します。
乙字湯とは?作用・適応症・基本情報

乙字湯の漢方理論と処方背景
乙字湯(おつじとう)は、中国の古典医学書『弁証録』に記載された処方で、主に痔疾患の治療に用いられてきた漢方薬です。古来より「気血の滞り」を改善し、炎症や腫れ、出血を抑える目的で使用されてきました。痔は現代医学では肛門部のうっ血や静脈の拡張によって起こるとされますが、漢方では「気の巡りが悪く、血が滞る」状態と捉えられます。乙字湯はこの「気」と「血」の両面を整える処方として位置づけられています。
乙字湯の構成生薬は、柴胡(さいこ)、升麻(しょうま)、当帰(とうき)、甘草(かんぞう)、大黄(だいおう)、黄芩(おうごん)の6種類です。これらの生薬はそれぞれ異なる役割を持ち、全体としてバランスをとるよう設計されています。たとえば、当帰は血の巡りを促進し、柴胡と升麻は気の流れを整えます。一方、大黄と黄芩は炎症や熱を抑える働きがあり、甘草は全体の調和を取る役割を果たします。
このように、乙字湯は「うっ血を取り除き、炎症を抑え、出血を防ぐ」という3つの方向からアプローチする処方です。慢性的な痔出血や痛み、排便時の不快感がある人に適しており、便秘を伴うケースにも有効です。ただし、体力が極端に低下している人や下痢傾向のある人には適さない場合もあります。漢方医学では体質との相性が重視されるため、専門家に相談しながら使用することが望ましいです。
主な効能・適応症・注意点
乙字湯は、主に「痔核(いぼ痔)」や「脱肛」など、肛門部のうっ血や炎症を伴う疾患に用いられます。特に、排便時に出血や痛みを感じるタイプ、また便秘を伴うタイプの痔に適しているとされます。現代医学的にも、乙字湯の生薬成分には抗炎症作用・鎮痛作用・血流改善作用があることが報告されており、これらが痔の症状緩和に寄与していると考えられています。
効能としては、痔核による出血、腫れ、痛みの軽減、肛門周囲の炎症緩和、さらに排便リズムの改善が挙げられます。また、乙字湯に含まれる大黄の緩下作用により、便秘傾向の改善にも効果が期待できます。ただし、大黄は刺激性のある成分のため、長期服用により腸の働きが鈍くなることがあるため注意が必要です。
適応体質は、体力中程度で、便秘気味、顔色が赤らみ、イライラしやすい、肛門の腫れや痛みを感じやすい人とされています。一方、冷え性や虚弱体質、下痢をしやすい人には合わない可能性があります。漢方では「証」と呼ばれる体質や症状の組み合わせが重要で、合わない場合には副作用のリスクが高まります。
副作用としては、まれに下痢、腹痛、食欲不振などの消化器症状が報告されています。また、肝機能障害や発疹などのアレルギー反応が起こることもあります。服用中に体調の変化を感じた場合は、速やかに服用を中止し、医師または薬剤師に相談することが大切です。
乙字湯はあくまで体質に合わせて使用する漢方薬であり、即効性よりも「体質を整えて症状を改善する」点に特徴があります。痔の根本的な原因である生活習慣や排便環境の改善も同時に行うことで、より良い効果が得られるでしょう。
メーカー比較 ― ツムラ vs クラシエの乙字湯製品の違い

成分・配合量・剤形の違い
乙字湯は、複数の製薬メーカーから販売されていますが、代表的なのが「ツムラ」と「クラシエ」です。どちらも漢方薬として同じ名称を持ち、基本的な構成生薬も共通しています。しかし、メーカーによって生薬の抽出方法や配合量、剤形(粉末・顆粒・エキスなど)が異なり、そのために飲みやすさや効き方の印象が変わることがあります。
ツムラの乙字湯(ツムラ漢方乙字湯エキス顆粒〔医療用〕)は、医療機関で処方されることが多いタイプです。ツムラでは品質の安定性を重視し、産地や成分含有量を厳密に管理した生薬を使用しています。1包中に乙字湯エキス2.5g(原生薬量7.5gに相当)が含まれており、6種類の生薬がバランスよく抽出されています。剤形は水に溶けやすい細粒状で、服用時に漢方特有の苦味や香りを感じることがあります。
一方、クラシエの乙字湯(クラシエ漢方乙字湯エキス顆粒)は、医療用と一般用(OTC)の両方が存在します。市販薬としてドラッグストアなどで購入できるのが特徴で、医師の処方なしでも利用できます。クラシエ製はツムラと同様の6種の生薬を用いていますが、抽出量や水分含有率にわずかな違いがあります。一般的にクラシエ製のほうがやや軽い口当たりで飲みやすく、味や香りがマイルドです。
配合バランスの違いは、体感に微妙な差をもたらすことがあります。ツムラ製はやや大黄や黄芩の働きがしっかり感じられる「実証」向け(体力が比較的ある人)といわれ、クラシエ製は穏やかで「中間証」〜「虚実中間」タイプにも適しやすいとされています。いずれも基本の作用は変わりませんが、体質や服用のしやすさで選ぶのが良いでしょう。
価格・販売形態・選び方のポイント
ツムラとクラシエの乙字湯は、どちらも同じ「乙字湯エキス顆粒」ですが、入手経路や価格帯、使用対象に違いがあります。これらを理解しておくと、自分に合った製品を選びやすくなります。
まず、販売形態の違い です。
ツムラの乙字湯は医療用漢方製剤であり、基本的には医師の診察・処方を通じて薬局で受け取るタイプです。保険適用の対象となるため、自己負担は3割程度となり、1日あたりの実質費用はおよそ30〜50円程度です。医師の指導のもとで服用できるため、体質や症状に合った処方が受けられるのが大きな利点です。
一方、クラシエの乙字湯は一般用医薬品(OTC)としてドラッグストアや通販サイトで購入可能です。医師の処方が不要なため、手軽に試すことができます。市販用のクラシエ乙字湯エキス顆粒(45包入り)の価格は、2,500〜3,500円前後が相場で、1日2回服用の場合、1日あたりの費用はおよそ120円ほどです。保険適用はありませんが、通院不要で入手できる利便性が魅力です。
選び方のポイントとしては、まず体質と症状の程度を考慮することが重要です。
・痔の出血や腫れが強く、体力がある人 → ツムラ製(医療用)でしっかり治療
・軽度の痔症状や予防目的、便秘傾向を整えたい人 → クラシエ製(OTC)でセルフケア
また、味や服用感の違いも判断材料になります。ツムラ製は生薬の風味がやや強めで、クラシエ製は口当たりが穏やかです。苦味が苦手な人にはクラシエ製が飲みやすい傾向にあります。
最後に注意点として、乙字湯は一時的な症状改善には有効ですが、長期間の連用や自己判断での服用は避けるべきです。特に便通を整える作用があるため、下痢体質の人が使用すると腹痛や軟便を招くことがあります。市販薬で改善が見られない場合は、医師や薬剤師に相談し、体質に合わせた治療を受けることが推奨されます。

