痔は多くの人が一度は経験するといわれる身近な症状です。座りっぱなしの仕事や便秘、冷えなどが原因で肛門の血流が悪くなり、痛みや出血を伴うことがあります。初期段階であれば生活習慣の見直しや市販薬の使用で改善できるケースがほとんどです。
本記事では、痔の種類ごとの特徴と自宅でできる治し方、薬の選び方、そして病院を受診すべきタイミングについてわかりやすく解説します。
痔の種類とそれぞれの治し方の基本

いぼ痔(痔核)の特徴と治し方
いぼ痔(痔核)は、肛門周辺の血流が滞ることで血管が膨らみ、いぼのように腫れた状態になるものです。最も一般的なタイプで、男女問わず発症します。主な原因は、長時間の座位・便秘やいきみ・冷え・妊娠出産など、肛門への血行障害に関わる生活習慣です。初期段階では痛みが少なく、排便時に出血や軽い違和感を感じることから始まります。
治し方の基本
軽度のいぼ痔は、生活習慣の改善と市販薬で十分に改善が見込めます。まず大切なのは、便通のコントロールです。便秘や下痢を繰り返すと肛門への負担が増し、炎症が悪化します。水分を十分に摂り、食物繊維の多い野菜・海藻・果物を積極的に取りましょう。また、アルコールや香辛料などの刺激物は控えるのが効果的です。
自宅でできる対策
・肛門部を清潔に保つ:排便後はトイレットペーパーで強く拭かず、シャワーやぬるま湯で洗浄
・温める:入浴や座浴(ぬるま湯に5〜10分ほど浸かる)で血行を促進
・長時間の座り姿勢を避ける:クッションを使用したり、定期的に立ち上がる
薬による治療
市販薬には、座薬・軟膏・内服薬があります。痛みや腫れにはステロイドを含まない軟膏、出血や炎症には座薬が有効です。血行を良くする内服薬(ヘモリンドやボラギノール内服薬など)を併用すると、治癒を助けることがあります。
受診が必要な場合
痛みや出血が長引く場合、またはいぼが外に出て元に戻らない場合(脱肛)は、肛門科を受診しましょう。進行すると「血栓性外痔核」や「内痔核の脱出」など、手術が必要なケースもあります。早めの受診が再発防止につながります。
きれ痔(裂肛)・あな痔(痔ろう)の特徴と治し方
痔にはいくつかのタイプがありますが、いぼ痔のほかに「きれ痔(裂肛)」と「あな痔(痔ろう)」も多く見られます。それぞれ原因や治療方法が異なるため、正しく理解しておくことが大切です。
きれ痔(裂肛)の特徴と治し方
きれ痔は、肛門の皮膚が排便時に裂けてしまう状態です。便秘などで硬い便が肛門を通る際に傷つくことが主な原因です。排便時の強い痛みと少量の出血が特徴で、排便後もヒリヒリとした痛みが残ることがあります。
初期の段階では自然治癒することも多く、以下のようなセルフケアが有効です。
主な対処法:
・便を柔らかく保つために水分と食物繊維を十分に摂る
・排便を我慢しない
・排便後は肛門を清潔に保ち、刺激を避ける
・座浴(ぬるま湯で肛門部を温める)を1日数回行う
痛みが強い場合は、市販の鎮痛・抗炎症成分を含む軟膏(ボラギノールAなど)を使うと効果的です。慢性化すると肛門の筋肉が硬くなり、裂けやすい状態が続くため、便秘の改善を最優先に行いましょう。
病院を受診すべきケース:
痛みが長引く、排便時に出血が続く、または傷が治ってもすぐ再発する場合は肛門科を受診しましょう。慢性裂肛になると、外科的処置(肛門の一部を拡げる手術など)が必要になることもあります。
あな痔(痔ろう)の特徴と治し方
あな痔(痔ろう)は、肛門の奥にある小さな腺に細菌が感染し、膿がたまる「肛門周囲膿瘍」が悪化して、膿の通り道(ろう管)ができてしまう病気です。膿が皮膚の外まで貫通し、出口から膿が出続けるのが特徴です。
主な症状:
・肛門の奥の痛み、腫れ、発熱
・膿や血の分泌
・下着が汚れる
初期の膿瘍の段階であれば、切開して膿を出すことで改善します。しかし、一度痔ろうになると自然には治らず、手術が唯一の根本治療法です。放置すると再発や慢性炎症を繰り返すため、早めの専門医受診が重要です。
自宅でできるセルフケアと薬・受診の目安

生活習慣・食事・排便習慣の改善方法
痔の多くは、生活習慣の見直しによって大きく改善が見込めます。とくに便秘や下痢を防ぎ、肛門への負担を減らすことが基本です。ここでは、毎日の生活の中で意識すべきポイントを整理します。
1. 食事の改善:便通を整える食べ方
痔の予防・改善には、まず「腸内環境を整える食生活」が欠かせません。便が硬いと排便時に強くいきむことになり、肛門の血管が圧迫されて炎症や出血を起こしやすくなります。
おすすめの食品:
・食物繊維を多く含むもの(ごぼう、キャベツ、ひじき、納豆、オートミールなど)
・乳酸菌を含む食品(ヨーグルト、キムチ、味噌など)
・水分を1日1.5〜2リットルを目安にこまめに摂取
控えたい食品:
・香辛料、アルコール、カフェインなど刺激物
・脂っこい食事、インスタント食品
・過剰な糖質摂取(腸内環境を乱し便秘の原因に)
食物繊維には「水溶性」と「不溶性」があります。不溶性(野菜・穀類など)ばかり摂ると便が硬くなることもあるため、海藻や果物などの水溶性もバランスよく取り入れましょう。
2. 排便習慣を整える
痔の悪化を防ぐには、「無理にいきまない」ことが非常に重要です。便意を我慢すると便が硬くなり、出す際に肛門を傷つけてしまいます。
良い排便習慣のポイント:
・朝食後など、決まった時間にトイレに行く習慣をつける
・便意がなくても長時間トイレにこもらない
・スマートフォンの使用や読書などでトイレ時間を長くしない
・便座に長く座ると肛門への血流が悪化するため、短時間で済ませる
便が出にくいときは、軽く前かがみになると腹圧がかかりやすくなります。また、足台を使って膝を少し高くすると、より自然な排便姿勢が取れます。
3. 日常生活での予防習慣
・長時間座りっぱなしを避け、1時間に1回は立ち上がる
・冷えを防ぐために下半身を温める
・ストレスをためず、十分な睡眠を確保する
特にデスクワーク中心の方は、クッションを活用するのも効果的です。「ドーナツ型」よりも、中央が少し低いU字型クッションのほうが血流を妨げにくいとされています。
市販薬の選び方・治らないとき/病院を受診すべきとき
痔は軽度であれば自宅でのケアや市販薬で改善することが多いですが、症状の種類や進行度に合わせて適切な薬を選ぶことが大切です。また、治らない場合に病院を受診すべきサインを見極めることも重要です。ここでは、市販薬の基本的な選び方と受診の目安を整理します。
1. 市販薬の種類と選び方
痔の症状には主に「痛み」「出血」「腫れ」「かゆみ」の4つがあります。市販薬はこれらの症状に対応した成分を含むものを選びます。
(1)軟膏タイプ
肛門の外側に塗るタイプで、外痔核(外側のいぼ痔)やきれ痔に適しています。炎症や痛みをやわらげ、皮膚の修復を助けます。
・代表製品:ボラギノールA軟膏、プリザエース軟膏など
・主な成分:リドカイン(鎮痛)、アラントイン(組織修復)、グリチルリチン酸(抗炎症)
(2)座薬タイプ
肛門の内側の炎症に直接作用し、内痔核(内側のいぼ痔)に効果的です。排便後の出血や腫れを抑えます。
・代表製品:ボラギノールA座薬、ヘモリンド座薬など
・使用時の注意:排便後に清潔な状態で挿入すること
(3)内服薬タイプ
痔の原因となる血流悪化や炎症を体の内側から改善します。腫れや出血を和らげる補助的な役割を持ちます。
・代表製品:ヘモリンド錠、ボラギノール内服薬など
・主な成分:トコフェロール酢酸エステル(ビタミンE)、ルチン(血管強化)
ポイント:
・痛みが強い → 軟膏または座薬
・出血がある → 座薬または内服薬
・外側が腫れている → 軟膏中心
・内側の違和感 → 座薬中心
症状が軽ければ、1〜2週間の使用で改善がみられることが多いです。
2. 市販薬で治らないときに考えられること
・便秘や生活習慣の改善が不十分である
・薬の使い方(頻度・期間)が適切でない
・症状の原因が「痔」ではなく別の病気(大腸ポリープや直腸がんなど)である
市販薬を2週間以上使っても出血や痛みが続く場合は、自己判断を避け、肛門科や消化器外科の受診をおすすめします。
3. 病院を受診すべきサイン
以下のような症状がある場合は、早めに専門医を受診しましょう。
・出血が続く、または量が多い
・強い痛みや腫れがある
・膿や発熱を伴う
・いぼが外に出て戻らない
・便が細くなった、体重減少など他の症状を伴う
受診先は「肛門科」または「消化器外科」です。恥ずかしさを感じる人も多いですが、医師は多くの症例を見ており、診察は短時間で済みます。的確な治療を受けることで再発を防ぎ、生活の快適さを取り戻すことができます。

