「痔(じ)」は多くの人が一度は経験するといわれる身近な病気です。肛門まわりに痛みや出血、違和感があると気づく方も少なくありません。しかし、痔は一つの病名ではなく、肛門に起こるさまざまな異常をまとめた呼び方です。
この記事では、痔とは何かをはじめ、その種類、原因、治療法までをわかりやすく解説します。初めて痔について調べる方でも理解しやすい内容となっています。
痔の基本理解

痔とは何か ― 定義と概要
痔(じ)は、肛門まわりの血管や粘膜、皮膚などに炎症や腫れ、傷などが起こる病気の総称です。特定の一つの病名ではなく、肛門に関するさまざまな異常をまとめた呼び方となっています。日本人の約3人に1人は、一生のうちに一度は痔の症状を経験するといわれるほど、非常に身近な疾患です。
痔は大きく分けて「いぼ痔(痔核)」「切れ痔(裂肛)」「痔ろう(あな痔)」の3種類に分類されます。これらはいずれも肛門に負担がかかる生活習慣や排便のクセ、血流の悪化などによって起こります。たとえば長時間のデスクワークや便秘、いきみすぎなどが代表的な原因です。
肛門は排便に関わる重要な器官で、内部には多くの血管と筋肉が集まっています。この構造によって便をコントロールする一方、血流の停滞や摩擦が起きやすい場所でもあります。そのため、わずかな刺激や圧力の変化でも炎症や腫れが生じ、痔の症状につながりやすいのです。
痔の症状は、軽いかゆみや違和感から始まり、進行すると痛みや出血、腫れが出る場合もあります。ただし、症状の出方は種類や進行度によって異なり、初期の段階では気づかないことも少なくありません。放置してしまうと慢性化しやすく、治療が長引くこともあります。
多くの場合、痔は命に関わる病気ではありませんが、生活の質(QOL)を大きく下げることがあります。早めに原因を知り、適切なケアを行うことで悪化を防ぐことができます。痔は恥ずかしい病気と思われがちですが、病院での診察や治療は一般的で、多くの人が改善しています。
痔が起こる仕組み ― 肛門まわりの構造と「痔」のメカニズム
肛門は、直腸の末端に位置し、便を体外に排出する出口にあたります。この部分は、外肛門括約筋と内肛門括約筋という二重の筋肉で構成され、便を漏らさないよう精密にコントロールしています。また、肛門周囲には血管が豊富に分布しており、排便時に膨らんだり収縮したりして圧力を調整する役割を担っています。
この血管の集まりを「痔静脈叢(じじょうみゃくそう)」と呼びます。長時間の座位姿勢や便秘によるいきみ、下痢の繰り返しなどでこの静脈叢に強い圧力がかかると、血流が滞り、血管が膨張・炎症を起こします。これが「いぼ痔(痔核)」の主な発生メカニズムです。
また、硬い便の通過や過度の摩擦によって肛門の粘膜や皮膚が裂けてしまうと「切れ痔(裂肛)」が起こります。裂けた部分は排便のたびに刺激を受けるため、痛みや出血を伴いやすく、放置すると慢性的な傷に変わることもあります。
さらに、肛門周囲の皮下や腺組織に細菌が感染し、膿がたまってトンネルのような穴を形成するのが「痔ろう(あな痔)」です。このタイプは自然治癒しにくく、手術による治療が必要な場合が多いとされています。
つまり、痔が起こる背景には「血流の悪化」「摩擦・圧力の蓄積」「感染」といった要因があり、これらが肛門という繊細な構造に影響を与えて発症します。生活習慣の改善や排便リズムの見直しが、再発予防にもつながります。
痔の種類・症状・原因・治療

主な種類 ― いぼ痔(痔核)、切れ痔(裂肛)、痔ろう(あな痔)
痔にはいくつかの種類がありますが、一般的に多いのは「いぼ痔(痔核)」「切れ痔(裂肛)」「痔ろう(あな痔)」の3つです。それぞれ原因や症状、治療法が異なります。ここでは、それぞれの特徴をわかりやすく説明します。
いぼ痔(痔核)
いぼ痔は、肛門の中や外の血管がうっ血し、ふくらんで「いぼ」のようになる状態を指します。肛門の内側にできるものを「内痔核」、外側にできるものを「外痔核」と呼びます。
内痔核は痛みが少なく、排便時に出血が見られることが多いのが特徴です。一方、外痔核は痛みや腫れが強く、座ると違和感を感じることがあります。
主な原因は、便秘によるいきみや長時間の座位、妊娠・出産、ストレスなどで血流が悪くなることです。初期のうちは座薬や軟膏で改善することも多く、重症化した場合は硬化療法や手術が行われます。
切れ痔(裂肛)
切れ痔は、硬い便が肛門を通過するときに粘膜や皮膚が裂けて起こる傷のことです。排便時に鋭い痛みを感じ、トイレットペーパーに血がつくことがあります。
原因の多くは便秘で、硬い便を無理に出そうとする際に肛門が傷ついてしまうケースが一般的です。急性期は出血や痛みが強く、慢性化すると傷が治りにくくなり、肛門が狭くなることもあります。
治療は、便を柔らかく保つ食生活の改善や軟膏の使用が中心です。重度の場合には、肛門を広げる処置や外科的治療を行うこともあります。
痔ろう(あな痔)
痔ろうは、肛門の内部にある腺に細菌が入り込み、感染によって膿がたまる「肛門周囲膿瘍」が進行した状態です。膿が皮下にトンネルを作り、肛門の外へ通じる穴ができるのが特徴です。
痛みや発熱、膿の排出などがみられ、自然に治ることはほとんどありません。痔ろうは「再発しやすい病気」として知られており、根治のためには手術が必要です。
放置すると炎症が長期化し、肛門機能に影響を与えることもあるため、早めに肛門科を受診することが大切です。
このように、痔といっても種類によって原因も症状も異なります。自覚症状だけで自己判断せず、医師による診断を受けることで、最適な治療方針を立てることができます。
原因・症状・セルフケアと治療の流れ
痔の発症には、日常生活の中で起こる小さな習慣が大きく関わっています。長時間の座り仕事、便秘や下痢の繰り返し、冷え、過度なアルコール摂取、ストレスなどが代表的な要因です。特に便秘による「いきみ」は、肛門周囲の血管を圧迫し、血流を滞らせて炎症を起こす主要な原因です。
主な症状としては、出血・痛み・腫れ・かゆみ・違和感などがあります。便に血が混じる、トイレットペーパーに血がつく、排便時に激しい痛みを感じるなどのサインは痔の可能性が高いです。ただし、まれに大腸ポリープやがんなどの病気が隠れている場合もあるため、出血が続く場合は早めの受診が勧められます。
セルフケアとしては、まず排便習慣を整えることが基本です。食物繊維を多く含む野菜や果物、海藻類を摂取し、水分をしっかり取ることで便を柔らかく保ちます。また、入浴による肛門部の血行促進や、長時間の座りすぎを避けることも効果的です。
治療の流れとしては、まず医師による問診と視診、指診が行われ、痔の種類や重症度を判断します。軽度の場合は、軟膏・座薬・内服薬による保存療法が中心です。症状が進行している場合には、硬化療法(注射による治療)や手術療法が検討されます。手術は局所麻酔下で行われることが多く、日帰りで可能なケースもあります。
痔は生活習慣と密接に関係しているため、治療だけでなく再発予防も重要です。バランスの取れた食事、適度な運動、ストレスの軽減を意識することで、再び痔に悩まされにくい体をつくることができます。

